笑う犬のアイディア術 〜「怒る企画術!」〜
「笑う犬の生活」「トリビアの泉」「爆笑レッドシアター」など、フジテレビを代表する人気番組の企画・演出を手掛けた敏腕プロデュサー吉田正樹氏が自身のアイディア術や企画術を綴った本。新書で200ページほどの内容ですが、ネプリーグや爆笑レッドシアターの誕生秘話などを語りつつ、アイディアを生み出して形にする方法論や技術は、テレビマンならずとも勉強になる部分がいっぱいでした。
以下、読書メモとして要点をまとめてみょうと思います。
1.アイディアは怒りから生まれる
アイディアを生み出すためには怒りが重要。「何か腹が立つことがある。これを変えたい、壊したいという思いがあって、そこを埋めるのがアイディア(p4)」現状に満足している時には、アイディアを生み育てる原動力が育たない、不安や嫉妬がアイディアを育てる。本書のタイトルにもなっている「怒り」というキーワード…これが、吉田正樹氏のアイディア論を構成する軸なっている言葉です。
2.アイディアとは「ちょっと新しいものの貯金」
「いいアイディアとは、斬新な最先端のアイディアではありません。誰かに言ってみたとき、「それは私もそう思っていた」と思われるのがいいアイディアです。(p64)」
万人受け指数ともいえる「視聴率」を商売にしていたテレビマンらしいアイディア論ですね。
「そんな難しい事を考えるから苦しむのです。(p64)」
「第一、まったく新しすぎるのは、そのよさがわかってもらえません。「半歩先を行く」くらいでちょうどいい(p64)」
いいアイディアとは「無から有を生み出すノーベル賞級」のアイディアではなく、みんなが薄々気付いていも言葉にできないもの。ちょっと古いネタですが「あるある探検隊」や「テツ&トモ」(海で昆布からダシがでないのなんでだろぉ〜)的なアイディアの方が回りの共感が得やすい。無から有を生み出すアイディアを考えるから苦しのだと。加えて、斬新すぎるアイディアはそのよさが他人に伝わらない。これは、ピカソやゴッホの絵を見て(なんで、こんなヘタクソな絵が何十億円もするんだ!)といった感覚に近いものかもしれません。
吉田氏は「半歩先を行く」アイディアを頭の中に眠らせておくため、気になったものをたくさん集めておく必要があると言います。
いまは使わないけれど、とりあえず冷凍保存のような感じで自分の中に貯め込む。そうすればいずれ、たまたま冷凍していた豚肉と冷凍野菜を組み合わせて、新しい野菜炒めができてしまうように、ひらめきが生まれるかもしれない。(p65)
3.いいアイディアかどうかは「因数分解」でわかる
アイディアや企画を構成する要素を「因数分解」によって分解することで、自分がやろうとしていることが正しいかどうか、冷静になって分析できるようになるそうです。
本書ではテレビ番組の「企画」における方法として紹介されていますが、これはアイディアにも応用できる方法だと思います。
コンセプト=a×(x+y+z)
・aは、テーマや企画にあける思い。
・(x+y+z)は企画を構成する要素。
「どんなアイディアも要素の組み合わせにすぎない」(p67)
企画やアイディアにとって一番重要なものは「メッセージ性」で、aが大きければ大きいほど面白くなる。因数分解によって(x+y+z)すべての要素に関わるaがダメなら、すべてがダメになってしまう可能性がある。さらに最近ではa×(x+y+z)ではなく、a×(x+y+z)に冒険要素であるbを入れたab×(x+y+z)に分解する事で、よりより企画になるのではと紹介されています。
ab×(x+y+z)
=abx+aby+abza→みんなの情熱、基本のテーマ
b→「ちょっと冒険」要素
x、y、z→その他、工夫できる切り口(p69)
4.アイディアは三行で伝わる
これも、アイディアに応用できる方法ですね。
よく、5W1Hが大切といわれますが、
「誰が、何を、どうする」、3つだけでいいのです。
そうすれば、どんな企画でも3行でいえます。(p75)
先ほどの因数分解の公式「ab×(x+y+z)」。この公式におけるa(みんなの情熱、基本のテーマ)がしっかりしていれば、長い企画書や説明はいらず、どんな企画でも3行で説明できる。逆に、3行で説明できない企画はa(みんなの情熱、基本のテーマ)が欠け、あまりいい企画とはいえない。
本書では、テレビ番組を例にといって以下のように紹介されています。
無名芸人が+持ちネタを+一分でやる=「爆笑レッドシアター」
ウッチャン以下芸人が+コントを+まじめにやる=「笑う犬の生活」
お笑い芸人が+青春を夢見て+世界を旅する=「電波少年インターナショナル」
ドリフターズが+歌やコントを+生放送でやる=「8時だョ!全員集合」(p77)
5.100発100中を狙わない
撃っても撃っても当たらないのは苦しいことです。それこそ本当に「戦死」して屍になってしまう。でも一発当たれば、すべは取り返せるもの。その一発は99発の犠牲がなければ生まれません。だから、アイディアの的中率は上げようとしなくていいのです。
別の表現をすれば、「99発の失敗を恐れるな」ということです。
なぜなら必ずしも99回撃たないと一発が当たらないということではないから。3発目ぐらいに当ってしまう場合もあります。(p100)
「下手な鉄砲かずうちゃ当たる」という諺がありますが、どんな下手な鉄砲でも撃たなきゃ当たんない。雨上がり決死隊の宮迫さんが自身のラジオ番組で、ベテラン芸人がすべらない理由について、「ベテラン芸人って、スベらないってイメージがある。でも、実際はスベってるんだよ。それを誤魔化すのが上手いだけなんだよ」と語っていますが、プロであっても失敗するのは当たり前。素人なら、なおさらです。
6.メモは「アイディアの棚上げ」
メモというは、「とりあえず書いておこう」という棚上げでしょう。
そんな「保留」を増やすよりは、アイディアはすぐ自分なりにアレンジして、形にしてしまいましょう。単なる備忘録のためのメモでは、あまり意味はない。いいアイディアは、気になって仕方ない。本当に名案なら、アイディアのほうで自分を放してくれません。(p106)
7.アイディアに困ったら「路地裏」を歩け
「最近、どうもマンネリだな」とか、「アイディアが出てこないな」と思うとき、僕はいましている仕事とはまったく関係ないものを見たり聞いたりするようにしいます。近いもりのより、できるだけ遠いみののほうがいい。(p109)
吉田氏は笑っていいとも!のディレクター時代から、放送作家やADを誘って奈良や飛鳥によく出かけていたそうです。
テレビ番組に奈良や飛鳥って何の関係があるの?とも思いますが、本や雑誌といった「誰かの脳を1回通った情報」ではなく、風の音や空気といった生の情報を体に取り込む事で脳が活性化されるそうです。脳科学的なことは茂木先生じゃないと分かりませんが、自然の空気や音を感じることでリラックスできる…そういう意味での効果はあるのかもしれませんね。
今、フジテレビTWOで再放送している(力の限りゴーゴゴー)と(笑う犬の情熱)にハマっている自分にとって、すごくタイムリーな本でした。企画術のほかにも、「力の限りゴーゴゴー」が3年で終了した理由や「テレビ番組がクイズ番組ばっかりになったワケ」など、テレビ好きにとっても楽しめる1冊かと思います。
怒る企画術! (ベスト新書 265)posted with amazlet at 10.01.24